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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)291号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決は、以下に説示するとおり、本願発明と引用例記載の方法との相違点についての判断を誤り、かつ、本願発明の奏する顕著な作用効果を看過した結果、本願発明は引用例から容易に発明をすることができるものとの誤つた結論を導いたものであり、違法として取消しを免れない。

成立に争いのない甲第二号証(特許願書添付の明細書)、第三号証(昭和五四年九月二八日付手続補正書)、第六号証(昭和五五年六月一一日付手続補正書)及び第八号証(昭和五六年一〇月二三日付手続補正書)によれば、本願発明の明細書の発明の詳細な説明の項には、本願発明の目的ないし技術的課題について、「本発明は、インク、ゴム及びプラスチツクで使用するために適当なカーボンブラツクの製法に関する。より特に、本発明は、慣用のペレツト寸法よりも小さく、高密度のペレツト寸法の均一な、優れたバルク取扱い処理特性及び良好な摩擦抵抗によつて特徴づけられるペレツト形のカーボンブラツクの改良製法に関する。」(特許願書添付の明細書第一頁の「発明の詳細な説明」の項第一行ないし第七行)、「現在公知のペレツト化法は、均一な強さ及び均一の寸法のカーボンブラツクペレツトの製造において完全に満足されるものではない。更に、現在有効なカーボンブラツクペレタイジング法は、貧バルク流動特性及び貧バルク取扱処理特性によつて不利に特徴づけられるペレツトを生ぜしめる。」(同第三頁第一一行ないし第一七行)及び「従つて、従来の方法の付随する不利な点を排除したペレツト化カーボンブラツクの新規の及び改良された製法を提供することが本発明の第一目的である。本発明のより詳細な目的は、カーボンブラツクの寸法、均一性及びバルク取扱い特性が調整されるカーボンブラツクのペレタイジング法を得ることである。」(同第四頁第二行ないし第九行)との記載のあることが認められ、更に、右目的ないし技術的課題を達成するための方法として、「本発明に従つて、前記及び更に他の目的は、綿毛状のカーボンブラツク及びペレツト化のために必要な水の一部分をペレツト化に先立つて均質な混合物が得られるまで五五〇rpmを上回る速度で作動する回転部を備えている混合機中で十分に混合するカーボンブラツクの新規製法を利用することによつて達成される。」(同第四頁下から第四行ないし第五頁第二行及び昭和五六年一〇月二三日付手続補正書第二頁第四行ないし第七行)、「本発明の入念な混合工程は、カーボンブラツク形成のための慣用方法に付随する大凝集物及び微粉の量を本質的に軽減するために行われる。」(特許願書添付の明細書第五頁下から第四行ないし末行)、「唯一の考慮すべき事柄は、綿毛状カーボンブラツクと水との緊密な混合時に、微粉を形成するいかなる不十分に湿潤した綿毛状カーボンブラツクも、及び大凝集物を形成するいかなる過剰に湿潤した綿毛状カーボンブラツクも製造されないように、全ての綿毛状カーボンブラツクがペレツト形成に必要な水の少なくとも最少量を受容することである。」(昭和五五年六月一一日付手続補正書第二頁第四行ないし第一二行)及び「従つて、入念な混合操作は、およそ一分間当り五五〇回転(RPM)にまで変わる軸速度を有する慣用のペレタイザー以外の手段を利用することによつて達成されるはずである。それというのも凝集物はかかる比較的低衝撃の環境で存在しうることが判明したからである。綿毛状カーボンブラツク及び水の混合は、大凝集物の形成を予防する適当な手段、例えば高剪断混合器、ハンマー・ミル、微粉機等を利用することによつて実施されるはずであり、この場合衝撃環境は慣用のペレタイザーにおいて通常存在するそれを凌駕する。有利な実施においては、十分な混合は一分間当り約三五〇〇~約六五〇〇回転の操作速度を有する任意の適当な手段、例えば、ハンマー・ミル又は微粉機を用いて達成される。」(特許願書添付の明細書第七頁第一二行ないし第八頁第七行及び昭和五五年六月一一日付手続補正書第二頁第一三行ないし第一四行)との記載のあることが認められ、右認定の各記載内容に前示本願発明の要旨を総合すると、本願発明は、従来みられるカーボンブラツクペレツトよりペレツト寸法が小さく高密度で、ペレツト寸法の均一な、優れたバルク流動特性とバルク取扱特性によつて特徴づけられるカーボンブラツクペレツトを得ることを目的の一つとし、これを実現するために、綿毛状のカーボンブラツクとペレツト化のために必要なペレタイジング水の一部分とをペレツト化に「先立つて、均質混合物が得られるまで、五五〇rpmを上回る速度で作動する回転部を備えている混合機中で、十分に混合することを」特徴とするカーボンブラツクの湿式ペレタイジング法の改良に関する発明であり、かつ、本願発明において、予備混合時に、右のとおり従来用いられてきた一分間当りの回転数が五五〇rpmまでの混合機ではなく、高剪断混合機やハンマー・ミルなどを利用して高速回転によつて十分に混合することとしたのは、本願発明が目的としているような前記特性を有するカーボンブラツクのペレツトを得るには、従来のカーボンブラツクの製造法でみられる大凝集物の形成を防止することが不可欠であることを見いだした知見に基づくことが認められる。したがつて、本願発明の特許請求の範囲において「五五〇rpmを上回る速度で作動する回転部を備えている混合機中で、十分に混合する」と規定したのも、カーボンブラツクペレツトの製造に当たつては、従来の方法にみられた大凝集物の形成を防止することが不可欠であるという知見に基づき、慣用の混合機において通常存在する衝撃環境を凌駕するような混合操作、すなわち、高剪断混合器、ハンマー・ミル若しくは微粉機などの混合機を利用して十分に混合することにより、大凝集物の形成を防止できることから、慣用の混合機、すなわち、五五〇rpmにまで変わる軸速度を有するペレタイザーにおいて存在する衝撃環境を凌駕する手段を用いるという技術的思想を表現したものと解するのが相当である。そして、前掲甲第二号証(特許願書添付の明細書)によれば、本願発明の実施例1ないし実施例3においては、予備混合のために使用する混合手段としては、一分間当り四〇〇〇回転の速度で動く微粉機が、また、実施例4においては一分間当り六五〇〇回転で操作される微粉機が利用されているが、ペレタイジング操作を実施するのに先立つて右のように高速度で動く適当な装置中でペレツト化に必要な水の一部をカーボンブラツクと十分に混合させることによつて、従来のカーボンブラツクペレツトより小さく、均一で高密度の、優れたバルク特性及びバルク取扱特性を有し、また、良好な摩擦抵抗を有するカーボンブラツクペレツトを得ていることが認められ、具体的な本願発明の実施例においては、カーボンブラツクのペレツト寸法は、極めて小さく標準三五メツシユ篩を通過し、かつ標準六〇メツシユ篩上に残留するものや標準一二〇メツシユ篩上に残留するような極めて粒径の小さいものも製造されていることを認めることができる。

一方、引用例が優先日前に日本国内において頒布された米国特許明細書であることは、原告の明らかに争わないところであり、成立に争いのない甲第一一号証(米国特許第三、三三三、〇三八号明細書)によれば、引用例には、本件審決認定のとおりの記載事項のほか、引用例記載の方法の目的ないしそこで生成されるカーボンブラツクペレツトの特性に関し、「本発明の目的の中には、先行技術の方法の短所を克服し、かつ、あらゆる等級のカーボンブラツクから、均一寸法で小形球状のペレツトを安定的に製造する改良されたペレタイジング法を提供することが含まれている。もう一つの目的は、均一寸法の小形球状のペレツトを実現し、かつ、ゴム工業の現在のニーズのために理想的な寸法に近い寸法と形状のペレツト化されたカーボンブラツク、すなわち、ペレツトの一〇〇%が標準メツシユスクリーンを通り、かつ、標準三五メツシユスクリーンの上にとどまるカーボンブラツクを提供することである。」(第一欄第七〇行ないし第二欄第八行)との記載があり、更に、引用例記載の方法の実施態様に関し、「本発明の説明のための実施態様では、予備混合水を、スクリユウーコンベヤ5を備えた予備混合室2の円筒形ハウジング1を通過していく締りのないカーボンブラツクの中へ送り込むことが考えられているが、変更態様によれば、供給スクリユウー5の付いたシヤフト3の代わりに、シヤフトに取り付けたピン型の攪拌機を用い、本質的に、シヤフト13よりもはるかにゆつくりとした速度(すなわち、三〇〇rpm以上の速度に対して五〇~一五〇rpm)で回転するピン型攪拌機を有する予備ペレタイジング=混合室を備え、この中で水が予備混合される。」(第三欄第四行ないし第一四行)との記載があることを認めることができる。

以上認定したところに基づき、本願発明と引用例記載の方法とを対比すると、両者は、カーボンブラツクをペレツト化する方法において、綿毛状のカーボンブラツクとカーボンブラツクペレツトの形成に必要なペレタイジング水の総量の一部とをペレツト化に先立つて予備混合するという技術的思想においては一致するが、予備混合時に本願発明においては、「五五〇rpmを上回る速度で作動する回転部を備えている混合機中で、十分に混合する」のに対し、引用例記載の方法においては、五〇~一五〇rpmで回転するピン型攪拌機のように、ペレタイジング=混合室での回転速度(三〇〇rpm以上)よりも遅いゆつくりとした回転速度(五〇~一五〇rpm)のもとで混合するものである点において、本件審決の認定判断するとおり相違するところ、前掲甲第一一号証を子細に検討するも、引用例には、本願発明における、慣用の混合機によつてゆつくりとした回転速度で予備混合を行つた場合に生じる大凝集物の形成についての問題点の認識やその解決手段に関する技術的思想を教示又は示唆する記載を何ら認めることができない。本件審決は、右の予備混合時の混合条件の相違について、「混合方法が、ほぼ同一であつても、急速に混合するか、緩徐に混合するかで、混合物の状態に影響が出ることは、本願発明の特許出願前から広く知られている事柄であるので、引用例の五〇~一五〇rpmよりも高い回転数、例えば、五五〇rpm以上で回転部を回転させることは、当業者が適宜なし得ることである。」と判断するところ、一般論としては、たとい混合方法が、ほぼ同一であつても、急速に混合するか、緩徐に混合するかで、混合物の状態に影響が出るものであるといえるにしても、カーボンブラツクのペレタイジング法における予備混合の工程において、急速に混合するか、緩徐に混合するかで、混合物の状態にどのような影響の違いが生じるのか必ずしも容易に推測し得ることとはいい得ず、かつ、本願発明における予備混合のために五五〇rpmを上回る回転数を有する混合機として用いられるものは、前認定のとおり高剪断混合機、ハンマー・ミル若しくは微粉機など一般に衝撃粉砕機と称される急速回転の混合機であつて、引用例記載の方法のようにピン型攪拌機を備えた混合機ではないのであるから、本件審決認定のように、両者の予備混合の条件を単に混合方法がほぼ同一であつて回転速度を変化させただけのものと解することは到底できない。そうすると、本件審決の右相違点についての認定判断は、本願発明と引用例記載の発明との技術的思想の相違を看過したものであり、合理性がなく、誤りといわざるを得ない。なお、被告は、この点に関し、乙第一号証の一ないし三及び第二号証を挙示するか、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三は、プラスチツクの成型加工における高速ミキサーの利用を開示したものであり、また、成立に争いのない乙第二号証は、カーボンブラツクと水との混合を混合機のシヤフトを約一八〇rpmの速度で回転させることによつて行うことを開示するのみであり、右の混合を緩急自在に行うことまでを開示するものではないから、これらの乙号各証は、カーボンブラツクをペレツト化する方法における予備混合のために、本願発明のように五五〇rpmを上回る高速回転数の混合機を採用することについての技術的思想を開示し、又は示唆するものということはできず、かえつて、引用例及び前掲乙第二号証によると、カーボンブラツクのペレツト化の方法においても、予備混合は、通常、比較的にゆつくりとした速度で行われていることが窺われるから、右乙号各証は上記の認定判断を覆すに足りない。

更に、本件審決は、本願発明の奏する効果について、「本願明細書の記載からみて、本願発明は、カーボンブラツクの粒径、その粒径の分布等において引用例記載のものに比し格別に優れているとすることができない。」と認定判断しているが、前認定のとおり本願発明においては、従来みられるカーボンブラツクのペレツトより小さく(標準三五メツシユ篩を通過し、かつ標準六〇メツシユ篩上に残留するものや標準一二〇メツシユ篩上に残留する極めて粒径の小さいペレツトも製造できる。)、均一な寸法で、かつ、高密度であつて、優れたバルク特性及びバルク取扱特性を有し、また、良効な摩擦抵抗を有するカーボンブラツクペレツトを得ているのであり、これらの効果は、引用例の記載からは予測し得ない格別のものと認められるから、本件審決が、本願発明の奏する効果の顕著性を否定した点は誤りといわざるを得ない。この点、被告は、甲第一六号証(例示的実験結果を内容とする宣誓供述書)の記載に基づき、予備混合時の混合機の回転速度が一〇〇〇rpmの場合の方が五五〇rpmの場合よりウエスタンエレクトリツク粉砕強度が劣ることをとらえて本願発明の奏する効果が顕著なものとはいえない旨主張するが、甲第一六号証(その成立に争いがない。)によつても高速剪断で予備混合した場合の本願発明の奏する前示の顕著な効果を否定することはできない。

そうすると、本件審決が、本願発明をもつて引用例の記載に基づき容易に発明し得るものとしたことは、その判断を誤つたものというべきである。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるというべきである。よつて、これを認容することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

綿毛状のカーボンブラツクを、カーボンブラツクペレツトの形成に必要なペレタイジング水の総量の一部分と、ペレツト化中で水の残分を加えるのに先立つて、均質混合物が得られるまで、五五〇rpmを上回る速度で作動する回転部を備えている混合機中で、十分に混合することを特徴とするカーボンブラツクの湿式ペレタイジング法。

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